されど罪人は竜と踊る(2) Ash to Wish
されど罪人は竜と踊る 2 ~Ash to Wish~ (ガガガ文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/06/19
- メディア: 文庫
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■ ストーリー
変わらぬ日々を送るガユスとギギナ。
ガユスはジヴとの暖かな日々おく・・・・・・れずに、今日も相棒のギギナに呼び出され仕事に向かっていた。
それは《異貌のものども》の一種《禍つ式》が街中に発現したというのだ。
現場に駆けつけたガユスとギギナは同業者でエリダナ最大の咒式事務所であるラルゴンキン事務所の所長ラルゴンキン・バスカークと共に《禍つ式》を撃破したものの、その《禍つ式》は最後に不吉な言葉を残す。
「夜会は、すでにはじまっている」
短期間にありえないほど出現する《禍つ式》。それによりガユスとギギナはラルゴンキン事務所と提携して《禍つ式》討伐依頼を受けることになった。
そして時を同じくして巨大咒式企業のラズエル社から、反政府組織《曙光の戦線》にさらわれた咒式の権威であるレメディウス博士の巨額の身代金の交換立ち会いを依頼される。ガユスとギギナは不吉な予感を覚えながらも自分の事務所の経済状況を鑑みて仕事を請けることにした。
何の関係性も見えないその2つの事件がエリダナの街を巻き込んだ大きな事件であることも知らずに。
■ 本作は
本当に絶望しか存在しません。
それは本作の主役レメディウス博士ことレメディウス・レヴィ・ラズエルの凄絶な人生がこの作品を絶望に貶めるのです。
彼の順風満帆で絶望に気付かない人生は反政府組織《曙光の戦線》に攫われることにより一変する。
そして誘拐された先で気付いてしまうのだ。開発に終われ砂時計の砂のように流れていた無機質な居場所がどれだけマシなところだったのかということに。
それは《曙光の戦線》のメンバーの一人ナリシアの口から。
「だって、このウルムンと違って、誰も意味なく殺されたり死んだりしないんでしょ?」
「偉い人の悪口を言っても、税金を払えなくても殺されない。誰も飢えで死んだり、女の人が売られたりしなくてもいいんでしょ? まるでお話の中の理想郷みたいだよ」
きっと日本からソマリアに行けばこれと同じ気分が味わえるのでしょう。味わいたくありませんが。
■ 戦争の現実
レメディウスはそこで衝撃的な瞬間を目撃してしまいます。
自分の開発した魔杖剣が人を殺す光景を。平穏の祈りを込めて作ったものが人を殺戮する姿を。
そして彼の心は傾く。それでもまだ彼は彼であった。まだ、彼は彼でいられたのだ。
しかし、これ以上の悲劇が待っていることには気付くことはできなかった。
■ ついに
彼の心の天秤を壊す決定的な出来事がおきてしまいます。
文字通り筆舌に尽くしがたいそれは、無明の絶望と深淵の悲しみしか残さないほどに彼の身も心もズタズタにし、そして大切な全てを失ってしまったのです。
そして彼を悪鬼羅刹へと変わり果てます。狂気の正気を保ちながら。
■ そして
彼は踏み出します。羅刹の道を。
自分の世界を守るために。悲しみから皆を守るために。
しかし、彼は自分の世界を守るためにすることが自分を滅ぼすことに気付いていません。
今の自分の姿が自分が憎むべき人間と同じ存在なのだということを。
個人の絶対的価値観が全てを決めるということの意味を。
「君ほどの頭脳が、なぜ待てなかった。なぜ絶望に身を任せた。白と黒ではない灰色の引き分けもひとつの戦略だと、次につながる一手だと受け入れなかった。どうして盤面を限定してしまった」
「レメディウスよ。論理と正しさだけに頼り、世界を善と悪に分けた瞬間、それゆえに君は敗北するだろう。徹底的に、壊滅的に、自分自身にすら裏切られて」
それがどうしようもなく、悲しい。
■ 評価としては
星5つ。何だか、現代社会の縮図を見ているような錯覚に陥りそうなのが悲しい。
レメディウスのことを抜きにしてもアクションや知略・策略、事件の頻拍感など他の部分が決して見劣りしているわけではありませんよ。そこも間違いなく面白い所だと思います。
禍つ式やガユスやギギナや《宙界の瞳》の秘密やらその他諸々には一切触れていませんが、まあそこはそこで個人で読んで楽しんで下さればいいのだと思います。