迷宮街クロニクル(1) 生還まで何マイル?
- 作者: 林亮介,津雪
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2008/11/15
- メディア: 文庫
- 購入: 103人 クリック: 801回
- この商品を含むブログ (133件) を見る
■ ストーリー
2001年の京都を大地震が襲った。
そしてその際にある場所に大穴がぽっかりと穴を開けた。
その穴は迷宮と呼ぶに相応しい複雑さと深さを持っていた。
信じられないことに、その穴から怪物と呼ぶべき異形の化け物が地上に出てきたのだ。
その対応に自衛隊が当たったものの、あまりにも効率的でないと悟った政府は一般人の志願者に迷宮の探索を委ねることにしたのだ。
何故一般市民に委ねられたのか?
倒しても倒しても湧いてくるという意味での非効率さもあったが、怪物たちの身体の一部が普通では手に入りにくい珍しい物質で構成されていたからだ。
その価値は現代のゴールドラッシュと呼ばれるに相応しく、非常に莫大な利益をもたらすものとなった。
だがそのゴールドラッシュは死亡率14%という恐ろしいハイリスクを伴っていた。
その迷宮を中心に作られた街『迷宮街』で、今日も様々な人間ドラマが幕を開ける。
■ エーテル
迷宮にしか存在しない謎の物質。
それは地下生物に多大な影響を与え、そして人間にも影響を与える。
エーテル下にいることで、不思議な力を行使できるようになるのだ。
普通ではありえない超常現象が起こしたり、人の怪我をあっというまに治癒したり、あらゆる存在を感知したりと完全に人間業とはいえない。
その不思議な力を持って、彼らは迷宮を探索する。
■ 読んだ上での印象
この作品を表現するならば、作中でもちょっと語られている『リアルドラゴンクエスト』みたいな感じです。
はがねのつるぎを装備して、魔法を用いて敵を倒す。おおなるほどと、普通に思ってしまいましたね。
私はそれに不思議なダンジョンシリーズも加味したい所です。ダンジョンを探索し宝を手に入れて戻る。一つの油断が死につながる。まさに不思議なダンジョンシリーズとは違い、死んだらそこで終了ですが。
ただ、ファンタジーな空気はまったくないといっていいと思います。
確かに魔法っぽいのが飛び交ってますが、それでもどうしようもなく現実的な空気がこの作品には漂っているのです。
■ それにしても
この作品はライトノベルにしては非常に珍しい形式をとっていますね。
この物語は基本的に常に誰かから主観で語られます。
それの何が珍しいのかというと、それ以外第三者的観点から語られること殆どがないのです。
基本的にライトノベルは第三者的な名も無き語り手が話を進めることが非常に多いため、そう考えると非常に珍しい形式といえます。
そしてその形式は、非常に豊かな人間ドラマを魅せてくれます。
ただまあ、登場人物が非常に多いので個人の心情を理解するのにメチャ時間掛かりましたけどね。
■ そして
この作品の主人公っぽい人物は決まってますが、彼にずっと主観が置かれず続けることもありません(出番は多分一番多い)。
あらゆる人物のそのときの観点がリアルタイムに語られる様は、シュピーゲルシリーズを見ているかのようですね。
穏やかな空気も戦闘での死の空気も全てがそこにはあります。喜びも悲しみも。そして現実も。
■ 何より
いつ死ぬかわからない環境に居続けると人はどうなってしまうのか。
死に逝く仲間を見送る心境は。ある日突然友人がいなくなってしまうことは。
自分がもし明日死んでしまうかもしれないと考えたら。
・・・・・・迷宮街に住み続けるには、のっぴきならない豪胆で真っ直ぐな根性が必要なようです。
■ 評価としては
頭が痛かったけれど星5つ。こんなに一文字一文字を見た作品は珍しいかも。
人の思いで綴られた文章はうかつに早読み出来ず、読了まで凄く時間掛けちゃいましたね。