約束の柱、落日の女王

 第16回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞作品です。

■ ストーリー
 イリアーラ帝国の中央貴族であるカルロ・カルネロスは、父親の死後に落ちぶれたカルネロス家を再興させるため、父親と同じ陸軍大将となって英雄となることを目指していた。

 カルロは幼少の頃より天才的な才能を発揮し、若干24歳で陸軍中将までに登り詰めた。

 そこから戦争で新たに大きな功をあげるも、恩師である現陸軍大将ルシドに裏切られ昇進できず、陸軍中将の地位に甘んじてしまう。

 ルシドに裏切られた彼は皇帝に直接取り入ろうと、皇帝が毎晩魘され怯える原因となっているらしい城の中にある呪いの神殿に赴き、その原因を見破って皇帝に恩を売ろうと考えた。

 警備兵に気付かれぬように神殿に侵入した彼は突然体が熱くなり、やがて視界も歪み始めた。

 呪い殺されてたまるか――そう思ったとき、手のひらが発光し始めやがて全身を覆ってゆき、そして気がつけば彼は二千年前の同じ場所に立っていた・・・・・・

 故郷イリアーラに帰る方法を探すため、情報を最も得やすいであろう二千年前のイリアーラと同じところにあるシュラトス王国で中央に仕官しようと、時の女王クリムエラに取り入ろうと考えた。

 しかし、カルロが知っている歴史ではシュラトスは翌年滅ぶことになっていた・・・・・・

■ 望まれぬ自分
 カルロは出世するためには部下の命をも犠牲にする冷酷非道な男でした。

 才能があれば疎まれ、才能があればこそ出世できるという矛盾を孕む厳しい世界の中では、カルロは人の想いを信じることが出来ませんでした。

■ 信じたいもの

 クリムエラも若き女王という立場から、人に信用されず、人を信用することが出来ませんでした。

 国を想っていたが、どうすれば国が良くなるかが分からず自暴自棄になり、間違っているとわかっていてもわがままに振舞うことしか出来ませんでした。

■ しかし

 お互い触れ合う度にその想いは変わってゆきます。

 少し長い引用になりますが、

 「それは出来ぬ。私はおまえを信じている。おまえは、私を真っ直ぐ見てきた。怯えるわけでも恐れるわけでもなく、軽蔑するわけでも非難するわけでもなく、ただただ真っ直ぐに見つめてきた。そんなお前の目が好きだ。その何でも見通しているような目が好きだ。その目でこの国を見て欲しい。そしてそれを私に教えて欲しい。おまえが必要だ」

 カルロは初めて国の駒ではなく人として必要とされることに喜びを感じ、クリムエラは初めて立場に関係なく自分を真っ直ぐに見つめてくれた人を信じたいと思うようになってゆきます。

■ やがて
 カルロは、キール・ダルターニ大臣やリーファン・コーカス女官長を味方に付け、滅びを迎えようとする国を改革し、この時代で生きていくことを考えるようになるのですが・・・・・・

■ 話の流れはされおき
 この作品は綺麗に纏まっている印象を受けます。起承転結がきちんと嵌っていて非常に読みやすいです。時々、会話文の長文が出てきてちょっと見辛いなと思うことはありましたが、落ち着いた描写で物語がするする頭に入ってきて、初めてライトノベルを読む方にもオススメです。

■ 恋愛
 カテゴリーに入れておきながら、全然説明の中に入れてませんでしたが、まあ・・・・・・なんとなく分かりますよね? 読んでからのお楽しみです。(ヒント:一応王道かもしれない

■ どうでもいいんですが
 ダルターニはどうみても三十過ぎには見えません。ありがとうございました。

 ちなみに、ダルターニの名前は一回しか出てきてなかったので、探すのに苦労しました(笑)

■ 評価としては
 星4.5です。ほぼ文句なし。ただ何故か一箇所、不自然なくらいに仲良くなっているところだけは気になりました。う〜ん、軽いエピソードがあれば自然だったのですが・・・・・・

 タイムトラベルの部分に関してはネタバレもりもりのため続きを読むにしておきます。

■ タイムトラベルについて
 別に深く考えるようなことではないのですが、恐らくカルロは平行世界に戻されたのだと思われます。

 その証拠として、

  1. 戻ってきた世界の人間関係が変わっていない
  2. 歴史はカルロが介入した歴史に変わっている

 これらのことから、同じ歴史から繋がる別の世界に戻されたのだと思われます。

 まあ、ただ人間関係が変わってないのは可笑しいなぁと思わなくないですが。